私は学校を卒業してから
広告制作会社で働いていました。
映像プランニングをしたかったのです。
しかしプランニングだけとはいかず
ディレクターのアシスタントもしていました。
入社してすぐに社内で
いじめが始まりました。
社内にとどまらず関連業者の人たちも
いじめに加わってきて悲惨な日々でした。
(※何人かいじめに加わらず、むしろ私の面倒をみてくださった皆様には今も深く感謝をしています。そういう方々を仰ぎみて「私もそういう人になりたい」と強く思って来ました。私の神様たちです。)
ある日、意地悪な男性ディレクターが
「東京で米倉斉加年さんの録音あるんだけど行けなくなったから、雪ちゃん行って来て」と言いました。
それで新人の私が、米倉斉加年さんという凄い俳優さんのナレーション録音のディレクターをすることになりました。
東京へ向かう前に、意地悪ディレクターが、クライアントの社名のアクセントについて指示を出して来ました。
しかしそのアクセントの場所は変だったのです。
ディレクターは、クライアントの社名の真ん中がアクセントだと言うのです。
だけど私には社名の頭にアクセントがくるとしか思えないのです。それで私はメモにクライアント名を書いてディレクターに「アクセントはここ(社名の頭)ではないですか?」と聞きましたが、意地悪ディレクターは真ん中だと強く言ってくるのです。それはやっぱり変で…私10回以上同じ質問を繰り返しましたがディレクターは真ん中にアクセントだと言い張り。
東京のスタジオで
米倉斉加年さんのナレーションの録音が始まりました。
私は米倉斉加年さんに、「社名は真ん中にアクセントです」と重くて暗い気持ちで伝えました。
米倉さんは「え?社名の頭じゃないの?」と私に聞かれました。何度も。私だって頭にアクセントとしか思えませんでしたが、あんなにディレクターに言われてはその通りに伝えるしかなくて。
米倉さんの15秒のナレーション録りは、2〜3回読んでいただいて終了でした。
私は米倉さんに「ナレーションいただきました。ありがとうございました。」と伝え、スタジオを出ようとしました。
そしたら米倉さんが「あのさ、もう1つ録らせてくれないかな。頭にアクセントつけたのを読みたいんだ。」と言ってくださって。
録音したものを会社に持ち帰ると、意地悪ディレクターがそれを再生しながら、社会の皆さんに笑いながらこう言いました。
「みんな聞いてー!雪ちゃんが米倉さんに間違えたアクセントで読ませてるよー!まあ、最後に間違えてないのがあったけどさ!」って、録音を何度も何度もしつこく大音量で再生して、そのたび社内の意地悪な皆さんが大笑いしました。私を責めるように意地悪いため息をついてみせたりしました。つまり意地悪ディレクターは、私に失敗させるために米倉斉加年さんの録音に行かせたのです。
私への嫌がらせを楽しむために仕事を駄目にするなんて最低です!
だけどそれ以上に、米倉斉加年さんの偉大さに震えました。
地方の企業の15秒の仕事。
それでも米倉斉加年さんは大舞台と変わらず責任を持って向き合っておられました。
あんな新人の私のミスですらフォローしてくだり、一つのCMという仕事を守られたのです。
「一流とはこういう人なんだ」って、物凄い衝撃と感激とで私本当に震えました。
そして私もそう在りたいと心に刻みました。
米倉斉加年さんから私は物凄く大事なことを教えていただいたのです。
あれからもう30年以上経ちます。
あの日の米倉さんの事を思うと今も震えます。涙で目が熱くなります。
今の私のなかには、米倉斉加年さんの精神が生きています。
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